日光東照宮といえば、多くの人が「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿を思い浮かべるでしょう。
しかし、もし、あの有名な三猿が壮大な物語のほんの一場面に過ぎないとしたら?
この記事では、徳川家康が神厩舎(しんきゅうしゃ)の全8面の彫刻に込めた「猿の一生」という名の人生の設計図を、歴史探訪家の視点から完全に読み解きます。
この記事を読めば、あなたの東照宮訪問は単なる観光から、徳川家康の平和への願いに触れる知的探求へと変わるはずです。
なぜ見過ごされる?多くの人が知らない「三猿」の本当の立ち位置
『三猿って、結局どういう意味なんですか?』これは最もよくある質問の一つです。
多くの人が三猿の教えそのものに関心を持っていますが、その彫刻が持つ本当の文脈を見過ごしていることが少なくありません。
実は、あの有名な三猿の彫刻は、神厩舎という神聖な馬小屋の、さらに長押(なげし)と呼ばれる水平材に施された装飾の一部に過ぎません。
多くの観光客が三猿の前で足を止め、満足して次の場所へ移動してしまいます。
しかし、徳川家康のメッセージは、この一枚の彫刻だけでは完結しないのです。
三猿は、壮大な物語のほんの始まりを告げる存在に過ぎません。
では、その物語の全体像とは、一体どのようなものなのでしょうか。
これが全体像だ!「猿の一生」全8面が描く人生の設計図
三猿の彫刻がなぜ神厩舎にあるのか、その理由から解き明かす必要があります。
古来、猿は馬の健康を守る存在、つまり馬の守り神と信じられてきました。
そのため、徳川家康の神馬を祀る神厩舎に、猿の彫刻が施されたのです。
そしてここからが本題です。
三猿は、「猿の一生」という全8面の物語の第2面にあたります。
この物語は、猿の姿を借りて人間の一生と、そこで学ぶべき教訓を描いています。
第1面: 誕生 – 母猿が子猿の未来を案じる。親の愛。
第2面: 幼少期 – 有名な三猿。「見ざる・聞かざる・言わざる」で素直に育つ。
第3面: 独り立ち – 青年期の希望と不安。
第4面: 青雲の志 – 高い目標を持つが、足元も見失わないように。
第5面: 挫折と友情 – 人生の壁と、それを支える仲間の大切さ。
第6面: 恋と結婚 – パートナーを見つけ、新たな人生へ。
第7面: 苦難の克服 – 夫婦で人生の荒波を乗り越える。
第8面: 次世代へ – 新しい命を宿し、物語は続いていく。
この8面の彫刻は、まさに人生の縮図です。
私たちは知らず知らずのうちに、この物語のどこかのステージを生きていると言えるでしょう。
【結論】: 現地では、ぜひ三猿だけでなく、向かって左の第1面から右の第8面まで、順番にゆっくりと鑑賞してみてください。
なぜなら、この物語は時系列で並んでいるため、順番に追うことで初めて徳川家康が伝えたかった人生の連続性が理解できるからです。
多くの人が三猿だけに注目してしまいますが、物語全体を味わうことで、東照宮訪問の体験価値は格段に深まります。
なぜ家康は猿に「人生」を語らせたのか?平和への願いと人間教育
では、なぜ徳川家康はこれほど壮大な「人生の物語」を、猿の彫刻に託したのでしょうか。
その答えは、この「猿の一生」の物語が、徳川家康が理想とする「人の生きるべき道」と平和への願いを視覚化したものである、という点にあります。
徳川家康が生涯をかけて目指した目標は、争いのない平和な世の中を築くことでした。
そして、平和な社会の礎は、道徳心を持ち、正しく生きる一人ひとりの人間であると考えていました。
特に、物語の始まりである三猿の教えは、その思想的起源を孔子の『論語』に持つことが知られています。
「非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言」(礼にあらざれば視るなかれ、聴くなかれ、言うなかれ)という一節です。
学問を深く重んじた徳川家康が、この『論語』の教えを人間教育の基本として捉え、物語の冒頭に配置したという事実は、彼の思想を理解する上で非常に重要です。
つまり、神厩舎の彫刻群は単なる装飾ではなく、平和な社会を実現するための人間教育のカリキュラムなのです。
この壮大な構想こそ、徳川家康が後世に伝えたかった、最も本質的なメッセージと言えるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 神厩舎は、日光東照宮のどこにありますか?
A1. 表門をくぐり、左手に進むと見えてくる、質素で飾らない白木造の建物が神厩舎です。三猿の彫刻は、この神厩舎の長押にあります。
Q2. 三猿の彫刻の作者は誰ですか?
A2. 作者は特定されていませんが、伝説的な彫刻職人である左甚五郎(ひだりじんごろう)ではないか、という説が有名です。ただし、これを裏付ける明確な記録はありません。
Q3. 三猿以外に、東照宮で見ておくべき彫刻はありますか?
A3. はい、数多くあります。
特に有名なのは、奥宮の入り口にある「眠り猫」です。
猫が眠ることで裏にいる雀が安心して遊べる、という平和な時代の到来を象徴した傑作です。
ぜひ、三猿の物語と合わせて鑑賞してみてください。
日光東照宮の三猿についてのまとめ
この記事で解説してきたように、日光東照宮の三猿は独立した教えではなく、徳川家康が描いた「猿の一生」という壮大な物語の序章に過ぎません。
そして、その物語全体が、平和な世を築くための人間教育の指針そのものなのです。
この知識を得た今、あなたの次の日光東照宮訪問は、もはや単なる観光ではありません。
彫刻の一つひとつに込められた徳川家康の想いを感じ、時を超えた対話を楽しむ「知的探求」となるでしょう。
ぜひ、この「人生の設計図」をご自身の目で確かめに、日光東照宮へ足を運んでみてください。

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